シグマ記号の使い方

一般的な表記ルール

数列 $a_{1}, a_{2}, \dots, a_{n}$ の和を表すのにシグマ記号（ $\sum$ ）が用いられます．

$a_{1} + a_{2} + \dots + a_{n}$

を，ギリシャ文字シグマ（ $\sum$ ）を用いて

$\sum_{i = 1}^{n} a_{i} = a_{1} + a_{2} + \dots + a_{n}$

と表します．

一般に， $\sum_{i = 1}^{n}$ という表記は，シグマ記号の右側に書かれた数式で，文字 $i$ を１から $n$ まで順に変化させ，そのすべてを足し合わせなさいという意味です．

値を変化させる文字は何でもよく， $\sum_{i = 1}^{n} a_{i}$ と $\sum_{k = 1}^{n} a_{k}$ は同じ足し算を意味します．ただし，値を変化させる添え字が式中の他の文字（こちらは変化させない）と同じになってはいけません。たとえば， $\sum_{a = 1}^{n} a_{a}$ という表記はいけません．

値を変化させる範囲は，連続する整数の範囲なら何から何まででもかまいません．たとえば，次のような式を書くことができます．

$\sum_{i = 2}^{m} i (i + 1) = 2 \cdot 3 + 3 \cdot 4 + 4 \cdot 5 + m \cdot (m + 1)$

$\sum_{r = 0}^{n} a x^{r} = a + a x + a x^{2} + a x^{3} + \dots + a x^{n}$

条件をつけることで，連続した整数の範囲から一部を除いて加算することもできます．たとえば，次の式には $i \neq 4$ という条件がつけられています．

$\sum_{\begin{matrix} i = 3 \\ i \neq 4 \end{matrix}}^{7} y_{i} = y_{3} + y_{5} + y_{6} + y_{7}$

複数のシグマ記号

値を変化させる文字が複数あるときには，複数のシグマ記号を並べます．このような表記を見ると驚いてしまう人がいますが，一度に複数の文字を相手にしないで，ひとつずつ変化させれば怖くありません．次の例を見てください．

$\sum_{i = 1}^{m} \sum_{j = 1}^{n} x_{i j} = \sum_{i = 1}^{m} (x_{i 1} + x_{i 2} + \dots + x_{i n})$

$i$ はそのままにして， $j$ を１から $m$ まで順に変化させ，加算を行っています．次に， $i$ を１から $m$ まで順に変化させて加算します．

$\sum_{i = 1}^{m} \sum_{j = 1}^{n} x_{i j} = \sum_{i = 1}^{m} (x_{i 1} + x_{i 2} + \dots + x_{i n})$

$= x_{11} + x_{12} + \dots + x_{1 n}$

$+ x_{21} + x_{22} + \dots + x_{2 n}$

$+ \dots$

$+ x_{m 1} + x_{m 2} + \dots + x_{m n}$

シグマ記号の演算規則

シグマ記号を用いた演算では，覚えておくとよい演算規則がいくつかあります．

シグマ記号の演算規則
定数倍はシグマ記号の前に出すことができる： $\sum_{i = 1}^{n} a x_{i} = a \sum_{i = 1}^{n} x_{i}$ シグマ記号は分配できる： $\sum_{i = 1}^{n} (x_{i} + y_{i}) = \sum_{i = 1}^{n} x_{i} + \sum_{i = 1}^{n} y_{i}$ 以上２つの性質をまとめて表現すると， $\sum_{i = 1}^{n} (a x_{i} + b y_{i}) = a \sum_{i = 1}^{n} x_{i} + b \sum_{i = 1}^{n} y_{i}$ 定数にシグマがつけられたら，定数に項数をかける： $\sum_{i = 1}^{n} c = n c$

シグマ記号の演算規則

定数倍はシグマ記号の前に出すことができる：

$\sum_{i = 1}^{n} a x_{i} = a \sum_{i = 1}^{n} x_{i}$
シグマ記号は分配できる：

$\sum_{i = 1}^{n} (x_{i} + y_{i}) = \sum_{i = 1}^{n} x_{i} + \sum_{i = 1}^{n} y_{i}$
以上２つの性質をまとめて表現すると，

$\sum_{i = 1}^{n} (a x_{i} + b y_{i}) = a \sum_{i = 1}^{n} x_{i} + b \sum_{i = 1}^{n} y_{i}$
定数にシグマがつけられたら，定数に項数をかける：

$\sum_{i = 1}^{n} c = n c$

$\sum_{i = 1}^{n} (a x_{i} + b y_{i}) = a \sum_{i = 1}^{n} x_{i} + b \sum_{i = 1}^{n} y_{i}$ を示します．

$\sum_{i = 1}^{n} (a x_{i} + b y_{i})$

$= (a x_{1} + b y_{1}) + (a x_{2} + b y_{2}) + \dots + (a x_{n} + b y_{n})$

足し算の順序を入れ替えて，

$= (a x_{1} + a x_{2} + \dots + a x_{n}) + (b y_{1} + b y_{2} + \dots + b y_{n})$

$= a (x_{1} + x_{2} + \dots + x_{n}) + b (y_{1} + y_{2} + \dots + y_{n})$

$= a \sum_{i = 1}^{n} x_{i} + b \sum_{i = 1}^{n} y_{i}$

シグマ記号が分配できることと，定数倍をシグマ記号の前に出すことができることがわかります．実際，

$\sum_{i = 1}^{n} (a x_{i} + b y_{i}) = a \sum_{i = 1}^{n} x_{i} + b \sum_{i = 1}^{n} y_{i}$

において， $a = b = 1$ の場合を考えることにより，

$\sum_{i = 1}^{n} (x_{i} + y_{i}) = \sum_{i = 1}^{n} x_{i} + \sum_{i = 1}^{n} y_{i}$

が得られます．

また， $b = 0$ の場合を考えることにより，

$\sum_{i = 1}^{n} a x_{i} = a \sum_{i = 1}^{n} x_{i}$

が得られます．

最後に，定数 $c$ について

$\sum_{i = 1}^{n} c = n c$

が成り立つことを示します．直感的には，この式の左辺は $c$ を $n$ 回加算するという意味であると考えれば，その値は確かに $n c$ となります．しかし，直感だけではあやしいので，式できちんと示しておきましょう．

いま学んだように，任意の数列 $x_{1}, x_{2}, \dots, x_{n}$ について，

$\sum_{i = 1}^{n} c x_{i} = c \sum_{i = 1}^{n} x_{i}$

が成り立ちます．

すべての項が１という数列（つまり，すべての $x_{i}$ が１）についてもこの等式は当然成り立ちます．このときは，

$\sum_{i = 1}^{n} c x_{i} = c \sum_{i = 1}^{n} x_{i}$

$= c (1 + 1 + \dots + 1)$

となります．すべての $i$ について $x_{i} = 1$ ですから，

$\sum_{i = 1}^{n} x_{i} = 1 + 1 + \dots + 1$ （１を $n$ 回加算する）

であることに注意してください．

１を $n$ 回加算した値は $n$ です．けっきょく，すべての項が１の数列については，

$\sum_{i = 1}^{n} c x_{i} = c \sum_{i = 1}^{n} x_{i}$

$= c (1 + 1 + \dots + 1)$

$= n c$

となります．

この式変形の出発点に戻ってください． $x_{i} = 1$ ですから，

$\sum_{i = 1}^{n} c x_{i} = \sum_{i = 1}^{n} c$

です．よって，先ほどの式変形とあわせると，

$\sum_{i = 1}^{n} c x_{i} = \sum_{i = 1}^{n} c = n c$

となって， $\sum_{i = 1}^{n} c = n c$ が示されました．