第５章　正規分布

この章について

このテキストでの正規分布表（p.203）は， 統計検定２級の試験で配布される正規分布表と異なっています． テキストの正規分布表は，p.66 で説明されているとおり， 標準正規分布に従う確率変数 $Z$ の累積分布関数の値 $\Phi \left(z\right)=P\left(Z<z\right)$ を示しています．一方， 統計検定２級の試験で使用されている正規分布表は， 上側確率，すなわち， $1-\Phi \left(z\right)$ を示しています． どちらを使用しても同じ解答が得られますが， 統計検定対策としては， 実際に試験で使用される正規分布表を使用してください．

正規分布の確率密度関数を覚える必要はありません． ただし，この関数での $\mu$ が平均， $\sigma$ が標準偏差であり， 平均と標準偏差（あるいは分散）を決めれば正規分布の形が決まるということは， 理解しておいてください．

指数分布（例題12）と連続型一様分布（例題13 および 5.13）は， いずれも統計検定２級の出題範囲に含まれています． これらの分布の確率密度関数は覚えておいた方がよいでしょう． 過去の出題から判断すると， これらの分布の平均と分散を覚えておく必要はないでしょう．

例題

例題１

$\Phi \left(z\right)=P\left(Z<z\right)$ という表記において，大文字の $Z$ は確率変数を表し， 小文字の $z$ は具体的な値を表します． わかりにくければ，文字を変えて， $\Phi \left(u\right)=P\left(Z<u\right)$ と書いてもかまいません．

小問 (g) および (h) では補間の計算が必要となります． 小問 (g) を例に，この方法を説明します． $P\left(X<c\right)=0.65$ を満たす $c$ を求めます． 正規分布表では，累積確率 $\Phi \left(c\right)=P\left(X<c\right)$ がちょうど 0.65 となるような $c$ は見つかりません． 累積確率が 0.65 に近い $c$ として， $\Phi \left(\mathrm{0.38}\right)=P\left(X<0.38\right)=0.6480$ および， $\Phi \left(\mathrm{0.39}\right)=P\left(X<0.39\right)=0.6517$ が見つかります． 求める $c$ の値は 0.38 と 0.39 の間にあることがわかります． 確率変数 $Z$ の値が増加するにつれて， 累積確率 $\Phi \left(z\right)$ の値が直線的に増加すると仮定すると， $\Phi \left(c\right)=0.65$ の近辺で，この関係は下図のようにあらわすことができます．

相似な三角形での線分の長さの比に注目すると， $$\left(0.39-0.38\right):\left(c-0.38\right)=\left(0.6517-0.6480\right):\left(0.6500-0.6480\right)$$ となります．この比例関係の式から， $c$ の値を求めることができます．

エクセルの NORM.S.INV 関数，あるいは，R の qnorm 関数を使えば， 標準正規分布において， 累積確率が特定の値 $c$ となる 確率変数 $Z$ の値を求めることができます． たとえば， 累積確率が 0.65 となる $Z$ の値を知りたければ， エクセルでは NORM.S.INV(0.65) とします．R では qnorm(0.65) とします．

例題２

初版では問題に誤植がありました．小問 (h) での不等号が逆でした． $P\left(X>c\right)$ となっているテキストを使用している場合には， $P\left(X<c\right)$ に修正してください．

初版では小問 (c) の解答に誤植がありました． 解答の最後の部分で，大文字の $\Phi$ を使うべきところが小文字の $\phi$ になっているところが２か所あります．

小問 (g) および (h) で必要となる補間の方法は， 例題１についてのコメントで説明しました．

小問 (h) での計算に誤植があります． $\frac{10-c}{2}$ の値が 0.5234 となっているのは誤りで，0.5244 が正しい． よって，$c$ の値は $c=10-2\times 0.5244=8.951$ となります．

例題３

小問 (b) での確率の計算は， 以下のように行った方が簡単かもしれません．

$P\left(-1.5<Z<1.5\right)=2\times P\left(0<Z<1.5\right)=2\times \{P(Z<1.5)-0.5\}=2\times \left(0.9332-0.5\right)=0.8664$

例題４

小問 (b) での確率の計算は， 以下のように行った方が簡単かもしれません．

$P\left(90<X<120\right)=P\left(-0.67<Z<1.33\right)=P\left(0<Z<0.67\right)+P\left(0<Z<1.33\right)=\{P(Z<0.67)-0.5\}+\{P(Z<1.33)-0.5\}=0.2486+0.4082=0.6568$

小問 (c) で必要となる補間の方法は， 例題１についてのコメントで説明しました．

例題５

初版では問題に誤植がありました． 問題文の最初が「500人の学生」となっているテキストを使用している場合には， 「300人の学生」に修正してください．

小問 (b) で必要となる補間の方法は， 例題１についてのコメントで説明しました．

例題６

小問 (b) で， 上位 20% に「優」をつけるときの基準点 $c$ （この点数以上を優とする）は， テキストでの計算のように $c=63.42$ となります． 点数は整数ですので，テキストでは64点以上としています． 優の人数が 20% を超えないようにするならば， 基準点は64点が正解となります． 超えてもよいのならば，63点という解答も正解です． 63点以上を優とするならば，優の割合は 21.19%， 64点以上を優とするならば，優の割合は 18.41% となります．

小問 (b) で必要となる補間の方法は， 例題１についてのコメントで説明しました．

例題７

小問 (a) および (b) では， $\Phi \left(2\right)=0.9772$ として計算しています．テキストの正規分布表（p.203）では $\Phi \left(2\right)=0.97725$ ですから，計算に使う値は 0.9973 とする方がよさそうです． しかし，エクセルの NORM.S.DIST 関数を使ってもう少し先まで $\Phi \left(2\right)$ の値を計算すると，0.9772498 となります． 小数点以下第５位を四捨五入すると 0.9772 となります．

小問 (c) で必要となる補間の方法は， 例題１についてのコメントで説明しました．

例題９

確率の計算は以下のように行った方が簡単かもしれません．

$P\left(179.5<Y<210.5\right)=P\left(-2.05<Z<1.05\right)=P\left(0<Z<2.05\right)+P\left(0<Z<1.05\right)=\{P(Z<2.05)-0.5\}+\{P(Z<1.05)-0.5\}=0.47982+0.3531=0.83292$

例題10

テキストの解答では， $P\left(6.5<X<20.5\right)$ すなわち $P\left(-0.08<Z<6.55\right)$ を求める式を書いています． しかし．知りたいのは７回以上勝つ確率ですから， $P\left(6.5<X\right)$ を求めればいいです．よって， $X=20.5$ を標準化する必要はありません． テキストの解答においても， 実際に正規近似によって求めている確率は， $P\left(6.5<X\right)=P\left(-0.08<Z\right)=P\left(Z<0.08\right)=\Phi \left(0.08\right)$ です．

例題11

良問です．問題状況の設定がおもしろいです． 問題解決にいろいろな知識（正規分布，ポアソン分布， 独立な事象の確率）を使うところもいいですね．

初版では小問 (a) の解答に誤植がありました． 計算式が $P\left(X=1\right)=e^{-3}=0.05$ となっているテキストを使用している場合には， $P\left(X=1\right)=3e^{-3}=0.15$ と修正してください．

小問 (a) および (c) で確率を計算するとき， $e^{-3}$ を数値で求める必要があります． これにはエクセルの EXP 関数を使用するとよいでしょう． エクセルの EXP 関数を用いて EXP(-3) を計算すると，0.049787 という値が返されます． R を使うなら， exp(-3) とします．

例題12

部分積分を使います．ほぼ高校数学の範囲で解答可能ですが， やや難しいかもしれません． 統計検定２級対策としては，この問題をスキップしてもかまいません． 部分積分を実行するような出題はされないと思います．

平均を求めるための積分において， ${\left[x{e}^{-\theta x}\right]}_0^{\infty }$ を計算する必要があります．[ ] の中の関数について $x\to \infty$ のときの極限を考えると， $x$ は $\infty$ に， $e^{-\theta x}$ は 0 に近づきます．つまり， $x\to \infty$ のとき， $x{e}^{-\theta x}$ は $\infty \times 0$ という「不定形」と呼ばれる形のひとつになります． 不定形とは，この形だけからは極限を定められず， 関数によって異なるという意味です．

このままでは [ ] の中の関数の極限がよくわからないので， 次のように簡単な式変形をします．

$${\left[x{e}^{-\theta x}\right]}_0^{\infty }={\left[\frac{x}{e^{\theta x}}\right]}_0^{\infty }$$

変形後の式では， $x\to \infty$ のときに分子（$x$）も分母（ $e^{\theta x}$ ）も $\infty$ に近づきます．これも不定形と呼ばれる形のひとつですが， この関数の極限は直観的にわかります． $x\to \infty$ のとき，分母は分子よりも急激に大きくなります． 分子に比べて分母は相対的にどんどん大きくなります． よって，[ ] の中の関数は， $x\to \infty$ のとき 0 に収束します．そうすると， ${\left[x{e}^{-\theta x}\right]}_0^{\infty }$ の計算は以下のようになります．

$${\left[x{e}^{-\theta x}\right]}_0^{\infty }={\left[\frac{x}{e^{\theta x}}\right]}_0^{\infty }=0-\frac{0}{e^0}=0$$

分散を求めるための積分では， ${\left[x^2{e}^{-\theta x}\right]}_0^{\infty }$ を計算する必要があります．同様の議論によって， この値も 0 であることがわかります．

以上の議論では，「 $e^x$ は $x^n$ よりも急激に増大する」「 $x\to \infty$ のとき， 関数の分子に比べて分母が急激に大きくなるならば， その関数は 0 に収束する」 という直観に頼って関数の極限を求めました． この問題で扱った関数の極限を厳密に求めることは少し難しいです． 高校数学の知識で読める解説として， 以下の文献の 2.2.4 節を参照してください．

清史弘(2005) 分野別 受験数学の理論 8. 微分・積分　駿台文庫

例題13

問題文での「比が $\frac{1}{3}$ 」という表現は， 日本で教えられている算数では「比の値が $\frac{1}{3}$ 」と表現します．この問題では，短い方の線分の長さを， 長い方の線分の長さで割った値です． テキストの解答で「 $X<\frac{a}{2}$ のとき」は，短い方の線分の長さが $X$， 長い方の線分の長さが $a-X$ です． テキストの解答で「 $X>\frac{a}{2}$ のとき」は，短い方の線分の長さが $a-X$， 長い方の線分の長さが $X$ です．これは図を描いてみれば容易にわかるでしょう．

この問題でたずねられている確率を求めるのに， テキストで示されている面倒な議論は必要ありません． 以下のような解答で十分です．

短い方の線分と長い方の線分の長さの比の値が $\frac{1}{3}$ より小さくなるのは，長さ $a$ の線分の左側 $\frac{1}{4}$ の部分（長さ $\frac{a}{4}$ ）か，右側 $\frac{1}{4}$ の部分（長さ $\frac{a}{4}$ ）が選ばれたときである． ランダムに１点を選ぶのだから， いずれかの部分が選ばれる確率は， もとの線分の長さ $a$ に対するこれら２つの部分の長さの割合に等しく， $\frac{1}{4}+\frac{1}{4}=\frac{1}{2}$ である．

テキストの解答での， $$P\left(R<\frac{1}{3}\right)=P\left(X<\frac{a}{4}\right)+P\left(X>\frac{3}{4}a\right)=\frac{a}{4}·\frac{1}{a}+\frac{a}{4}·\frac{1}{a}$$ という計算は，連続型一様分布の確率密度関数を利用して， 確率の計算を行っています．下図は区間 $0<x<a$ での確率密度関数が $f\left(x\right)=\frac{1}{a}$ である連続型一様分布を表しています． 塗りつぶした２つの長方形の面積が， それぞれ $P\left(X<\frac{a}{4}\right)$ と $P\left(X>\frac{3}{4}\mathrm{a}\right)$ になります．

５章の問題

5.1

初版では小問 (d)，(e)，(f) に誤りがありました． 出題と解答がまったく異なるので， いずれかを完全に書き換えることになります． けっきょく，小問 (d) および (e) は問題， 小問 (f) は解答が書き換えられました． 小問 (d) は $P\left(-1<Z<0.5\right)$， 小問 (e) は $P\left(1.24<Z<2.16\right)$ となりました． 小問 (f) の解答は $P\left(Z>-2.19\right)=\Phi \left(2.19\right)=0.98574$ となりました．

小問 (g) および (h) では補間が必要となります． 補間の方法は， 例題１についてのコメントで説明しました．

5.2

初版では小問 (c) の解答に誤植がありました． 解答が 0.4764 となっているテキストを使用している場合は， 0.4761 に修正してください． この小問の解答は式変形が少し不自然です． $$P\left(X>3.06\right)=P\left(Z<-0.06\right)=1-\Phi \left(0.06\right)$$ としていますが， $$P\left(X>3.06\right)=1-P\left(X<3.06\right)=1-P\left(Z<0.06\right)=1-\Phi \left(0.06\right)$$ とした方が自然でしょう．

小問 (d) での確率の計算は，以下のように行った方が簡単かもしれません．

$P\left(1<X<4.2\right)=P\left(-2<Z<1.2\right)=P\left(0<Z<2\right)+P\left(0<Z<1.2\right)=\{P(Z<2)-0.5\}+\{P(Z<1.2)-0.5\}=0.47725+0.3849=0.86215$

小問 (g) および (h) では補間が必要となります． 補間の方法は，例題１についてのコメントで説明しました．

5.5

部品の長さの設定が少し不自然かもしれません． 小問 (a) より，この機械が作る部品の長さは， 平均 3.58 cm，標準偏差 2 cm の正規分布に従います． 長さ 0 cm を標準化すると， $z=-1.79$ となります． $P\left(Z<-1.79\right)=0.0367$ なので，100個の部品のうちおよそ３個は長さが負の値になってしまいます． 正の値しかとらない確率変数であっても， その分布として正規分布（定義域は実数全体です）を考えることは誤りではありません． しかし，負の値の出現確率がゼロとみなせるぐらい小さくないと不自然です．

5.6

小問 (b) の問題文は修正した方がよいと思います． 平均を非常に大きくすれば， 袋の中の食品の重さが 50g を下回る確率を 1%「以下」にできます． たとえば，平均を 100g にするという解答でも， この確率を 1% 以下にできていますから， 正解になってしまいます． 平均値の下限値を求めるよう， 問題文の最後に「その下限値を求めよ．」と加えるべきでしょう． 問題文を「この確率を 1% にするには」と修正（「以下」を削除）することもできますが， そうするとテキストの解答例も修正が必要になります．

テキストの小問 (b) の解答は $P\left(Z>\frac{50-\mu }{1.6}\right)>0.99$ という不等式を $\Phi \left(\frac{50-\mu }{1.6}\right)<0.01$ と書き換えていますが， これでは結論から遠ざかってしまっています．最初に， $P\left(X<50\right)<0.01$ という不等式を $P\left(X>50\right)>0.99$ と書き換えたのに， これを元に戻していることと同じです． 適切な式変形は， $$P\left(Z>\frac{50-\mu }{1.6}\right)=P\left(Z<\frac{\mu -50}{1.6}\right)=\Phi \left(\frac{\mu -50}{1.6}\right)>0.99$$ でしょう．この不等式を満たす $\mu$ を正規分布表から見つけます． 問題文の文脈から，平均値 $\mu$ は 50 よりも大きい値であることに注意してください． 正規分布表を見ると， $$\Phi \left(2.32\right)=0.98983$$ $$\Phi \left(2.33\right)=0.99010$$ であることがわかります． $\Phi \left(\frac{\mu -50}{1.6}\right)>0.99$ を満たすように平均値 $\mu$ を決めるのですから，等式 $$\frac{\mu -50}{1.6}=2.33$$ を解きます．

5.8

正規分布の確率密度関数を微分して，関数の増減を調べます． この関数の見かけが複雑なため難しそうに思えますが， 実際にはそれほど難しくありません． 高校数学の範囲で解くことのできる問題です． しかし，統計検定２級対策としては， この問題をスキップしても構いません．

この関数の増減表をきちんと書くと，以下のようになります （手書きならカーブした矢印を書くところを， ２つの矢印で表現しています）．

$x$	$-\infty$		$\mu -\sigma$		$\mu$		$\mu +\sigma$		$\infty$
$f^{\prime }\left(x\right)$		$+$	$+$	$+$	$0$	$-$	$-$	$-$
$f^{\prime \prime }\left(x\right)$		$+$	$0$	$-$	$-$	$-$	$0$	$+$
$f\left(x\right)$	$0$	$\to \uparrow$	$\frac{1}{\sqrt{2\pi }\sigma }{e}^{-\frac{1}{2}}$	$\uparrow \to$	$\frac{1}{\sqrt{2\pi }\sigma }$	$\to \downarrow$	$\frac{1}{\sqrt{2\pi }\sigma }{e}^{-\frac{1}{2}}$	$\downarrow \to$	$0$

２次導関数 $f^{\prime \prime }\left(x\right)$ の値が $x=a$ で 0 となるとき， $x=a$ の前後で２次導関数の符号が変化するならば，点 $\left(a,f\left(a\right)\right)$ は変曲点となります．正規分布の確率密度関数は $x=\mu \pm \sigma$ で２次導関数の値が 0 となり， この前後で２次導関数の値の符号が変化しています．

テキストの解答に誤植があります（第27刷）． $e^{-1}$ を $e^{-\frac{1}{2}}$ に修正してください．

5.10

初版では解答に多くの誤植がありました， 最近の版では１か所を除き修正されています（第27刷で確認）．

• ２項分布の標準偏差の計算式に誤植がありました． 試行数を 50 とすべきところが 20 となっており， 結果として標準偏差の値も誤っていました． 正しい式は $\sigma =\sqrt{50\times 0.4\times 0.6}=3.46$ です．
• ２項分布の標準偏差に誤りがあったため， その値を用いた標準化に誤りが生じました． 標準化において 2.19 という標準偏差の値が使用されている場合は， 3.46 に修正してください．４か所あります．
• 標準化の結果が誤っているので， その後の計算に誤りが生じました． 小問 (a) での正しい計算式は $2\Phi \left(0.14\right)-1=0.1114$ です． 小問 (b) での正しい計算式は $2\Phi \left(1.59\right)-1=0.8882$ です．
• 小問 (a) で計算している確率の値は， 最近の版でも誤植があります（第27刷で確認）． この値が 0.114 とされていますが，正しくは 0.1114 です．

5.11

細かいことですが，毎晩50人ちょうどの予約を受けつけているとします． 実際の受付状況がこれと大きく異なると， 試行数 $n=50$ とした２項分布を使って確率を計算することは，適切ではなくなります．

テキストの解答では， $P\left(0\le X\le 45\right)$ を求める式を書いています． 半整数補正を行って， $P\left(-0.5\le X\le 45.5\right)$ を計算しています． しかし．知りたいのは客の数が45人以下となる確率ですから， $P\left(X\le 45.5\right)$ を求めればいいです． テキストの解答も実際にはこの確率を計算しており， $X=0$ （半整数補正を行えば $X=-0.5$ ）を標準化する必要はありません．

テキストでは $X=45.5$ を標準化した値を $Z=0.7479$ としていますが，これは $Z=0.75$ とすべきです． ２項分布の標準偏差の計算で， 小数点以下第２位までに数値を丸めて 2.34 としていますから， 小数点以下４位まで $Z$ の値を求めても，精度がよくありません． $Z$ の値を小数点以下第２位まで求めたいので， 電卓を使うなら２項分布の標準偏差は小数点以下第３位まで求めて（第４位を四捨五入）， 2.339 としておくとよいでしょう． 求める確率は， $\Phi \left(0.75\right)=0.7734$ となります．この問題で問われている確率を，R を使って計算するには， 以下のコードを実行します．すると，0.7728699 という値が返されます．

pnorm(1.75 / sqrt(50 * (7/8) * (1/8)))

エクセルで同じ計算を実行するには， NORM.S.DIST 関数を使います．以下の式を実行します．

NORM.S.DIST(1.75 / SQRT(50 * (7/8) * (1/8)), TRUE)

5.12

置換積分の計算を行います． 高校数学の範囲で解くことができますが， 統計検定２級対策としては，この問題をスキップしても構いません．

テキストの解答では， $x$ が正の数のときと負の数のときで，積分区間を２つに分けています． すなわち， $x<0$ のとき $\left|x\right|=-x$ ， $x>0$ のとき $\left|x\right|=x$ なので，

$E\left(\left|x\right|\right)={\int }_{-\infty }^{\infty }\left|x\right|f\left(x\right)dx={\int }_{-\infty }^0(-x)f\left(x\right)dx+{\int }_0^{\infty }xf\left(x\right)dx=2{\int }_0^{\infty }xf\left(x\right)dx$

としています．最後の式変形にはギャップがあります． このような変形ができることは． $y=-x$ という置換をしてみないとわかりません．

偶関数の性質を使えば，積分区間を２つに分けることなく， 上の式変形での最後の形を直観的に得られます． 偶関数とは， 定義域内の任意の $x$ について， $f\left(x\right)=f\left(-x\right)$ を満たす関数です．偶関数のグラフは原点を中心として左右対称です． よって， $f\left(x\right)$ が連続な偶関数のとき（「連続」の意味を知らなければ， 気にしなくてかまいません）， $${\int }_{-a}^{a}f\left(x\right)dx=2{\int }_0^{a}f\left(x\right)dx$$ であることは直観的にわかります． グラフが原点を中心に左右対称なのですから， $x=-a$ から $x=a$ までのグラフ下全体の面積は，片側（ $x=0$ から $x=a$ まで）の面積の２倍となります． 実数全体を定義域とする関数では，少し注意が必要ですが， $${\int }_{-\infty }^{\infty }f\left(x\right)dx=2{\int }_0^{\infty }f\left(x\right)dx$$ となります．この問題では， $f\left(x\right)$ は偶関数であり， $\left|x\right|f\left(x\right)$ も偶関数です．よって，

$E\left(\left|x\right|\right)={\int }_{-\infty }^{\infty }\left|x\right|f\left(x\right)dx=2{\int }_0^{\infty }\left|x\right|f\left(x\right)dx=2{\int }_0^{\infty }xf\left(x\right)dx$

となります．関数 $f\left(x\right)$ を具体的に書くと， $$E\left(\left|x\right|\right)=\frac{2}{\sqrt{2\pi }\sigma }{\int }_0^{\infty }x{e}^{-\frac{x^2}{2{\sigma }^2}}dx$$ となります．テキストの解答はここで $\frac{x}{\sqrt{2}\sigma }=y$ という置換を行っていますが， $\frac{x^2}{2{\sigma }^2}=y$ と置換しても積分はうまく計算できます．この場合， $\frac{dy}{dx}=\frac{x}{{\sigma }^2}$ より， $x·dx={\sigma }^{2}dy$ なので， $$E\left(\left|x\right|\right)=\frac{2{\sigma }^2}{\sqrt{2\pi }\sigma }{\int }_0^{\infty }{e}^{-y}dy=\sqrt{\frac{2}{\pi }}\sigma$$ となります．

5.13

区間 $-1\le x\le 1$ で一様分布する確率変数 $X$ の確率密度関数は， $$f\left(x\right)=\frac{1}{2}\left(-1\le x\le 1\right)$$ です．

小問 (a) で問われている条件つき確率の条件 $\left|X\right|>\frac{1}{2}$ は， $X<-\frac{1}{2}$ あるいは $X>\frac{1}{2}$ であるということです．よって，問われている条件つき確率の分母は， $$P(\left|X\right|>\frac{1}{2})=P\left\{\right(X<-\frac{1}{2}\left)\text{or}\right(X>\frac{1}{2}\left)\right\}=P(X<-\frac{1}{2})+P(X>\frac{1}{2})$$ となります． この確率は，一様分布の確率密度関数 $f\left(x\right)=\frac{1}{2}$ のグラフ（下図）で，塗りつぶされた２つの正方形の面積です．

小問 (a) で問われている条件つき確率の分子を計算するには， $$(X>\frac{2}{3})\text{and}(\left|X\right|>\frac{1}{2})$$ を満たす $X$ の範囲を定める必要があります． $X>\frac{2}{3}$ と $X<-\frac{1}{2}$ を同時に満たす $X$ は存在しません． $X>\frac{2}{3}$ と $X>\frac{1}{2}$ を同時に満たす $X$ は $X>\frac{2}{3}$ です．よって，小問 (a) で求める確率の分子は， テキストの解答に示されているように， $$P\left(\frac{2}{3}<X<1\right)=\frac{1}{3}\times \frac{1}{2}$$ となります． 一様分布の確率密度関数 $f\left(x\right)=\frac{1}{2}$ のグラフで，この確率がどの部分の面積に対応しているかは， 容易にわかるでしょう．